文化
江ノ電が走る参道に、奈良の面が蘇る——御霊神社「面掛行列」、9月18日に執り行われる
鎌倉・坂ノ下の御霊神社で毎年9月18日に行われる例祭。県の無形民俗文化財に指定された「面掛行列」は、奈良時代の伎楽面を纏った10人の行列が坂ノ下の町を練り歩く、全国的にも希少な祭礼だ。
江ノ電の線路が目の前を横切る——鎌倉・坂ノ下の御霊神社は、ドラマや映画のロケ地としても広く知られる古社だ。平安時代後期に創建されたとされ、鎌倉・湘南地帯の開拓に尽くした武将、鎌倉権五郎景政を祭神として祀る。「吾妻鏡」にもその名が記された景政の命日にあたる9月18日、この小さな社では毎年、全国的にも類を見ない祭礼が静かに執り行われる。
「面掛行列(めんかけぎょうれつ)」——それが、神奈川県の無形民俗文化財に指定されたこの祭礼の名だ。爺・鬼・異形・鼻長・烏天狗・翁・火吹男・福禄寿・おかめ・女という10種の面を付けた10人が、笛や太鼓の囃子に合わせて坂ノ下の町中をゆっくりと練り歩く。用いられるのは奈良時代に仏教布教のために演じられた仮面劇「伎楽(ぎがく)」の系譜を引く面々で、現在、伎楽面を祭礼に用いる行列がこれほどの形で残っているのは全国的にも極めて稀とされる。かつては鶴岡八幡宮の祭礼にも面行列が加わっていたが、明治以降に途絶え、今では御霊神社のみがこの伝統を守り伝えている。
行列の白眉は終盤に登場する「おかめ」だ。黒紋付の裾模様に大きく膨らませた腹——妊婦を演じるおかめのお腹に触れると安産が叶うとされ、古くから「はらみっと祭」の別称でも親しまれてきた。その後に続く「女(さんば)」役の産婆が扇でおかめの腹をあおいだりなでたりとおどけた仕草を見せ、周囲の笑いを誘う。豊年・豊漁・安産という人々の素朴な祈りが、奈良時代から続く面の中に宿っている。例祭では神楽(湯立神楽)の奉納と神輿渡御も行われ、総勢100名を超える氏子や神職が星の井通りを練り歩く光景は、秋の鎌倉に古代の華やぎを呼び込む。
今年も9月18日、例祭は昼12時から、鎌倉神楽は13時から、そして面掛行列は14時30分頃から始まった。江ノ電が轟音を立てて参道の前を通り過ぎる傍ら、奈良時代の面を纏った行列がゆっくりと歩を進める——この時間の交差こそが、御霊神社の面掛行列の最大の醍醐味かもしれない。例年、面掛行列は雨天中止となるため、来年以降に訪れる際はあらかじめ天候を確認してから出かけたい。
