観光
明治の貿易商が遺した、島の頂上の庭園
イギリス人貿易商が明治期に築いた植物園が、今は江の島のランドマークに。
江の島の頂上部に広がる江の島サムエル・コッキング苑は、横浜で貿易商を営んだイギリス人、サムエル・コッキングが明治期に築いた庭園がそのルーツになっている。コッキングは世界各地から集めた植物をこの島の頂に植え、当時としては珍しい温室まで整備したという。苑内には、コッキングが造った温室の遺構が現存する唯一のものとして残されている。平成14年(2002年)のリニューアル工事の際に発見された煉瓦造りの遺構で、現在は「温室遺構展示体験棟」のガラス張りの床から見渡せるほか、実際に中に入ってその雰囲気を味わうこともできる。
現在の苑内には、展望灯台「江の島シーキャンドル」がそびえ立ち、気象条件が整えば、その展望台から富士山や三浦半島、伊豆半島まで見渡すことができる。苑内には1月から3月にかけて咲く250種もの椿をはじめ、四季折々の花々が植えられており、日本初のフレンチトースト専門店として知られる「LONCAFE」もある。一人のイギリス人貿易商が趣味的に始めた庭づくりが、140年あまりの時を経て江の島を代表する観光名所として今なお残り続けていること自体が、この島の観光の歴史を物語る、小さな奇跡のような出来事だといえるだろう。
苑内にはこのほかにも、片瀬海岸を見渡せる「マイアミ広場」や、藤沢市の友好都市である中国・昆明市の四阿(あずまや)「騁碧亭」など、地域交流の歴史を伝える一角も設けられている。灯台の真下には眺望を楽しみながら食事ができるカフェもあり、庭園を歩き疲れた頃にひと休みするのにちょうどいい。5月と10月にはカナダのウィンザー市から贈られたバラも花開き、訪れる季節によってまったく異なる表情を見せてくれるのも、この庭園の魅力のひとつだ。
コッキング苑を訪れるたびに、一人の外国人の個人的な情熱が、時代を超えて地域の宝物として残り続けていることに驚かされる。庭園という形で受け継がれた歴史は、これからも江の島の風景の一部であり続けるだろう。
苑内の施設は江ノ島電鉄が運営しており、江の島エスカーという有料の屋外エスカレーターを使えば、坂道を登らずに頂上部までたどり着くこともできる。体力に自信のない人や、小さな子ども連れの家族にとっても訪れやすい工夫がされている点は、観光地としての江の島の懐の広さを物語っている。
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