観光
明治・大正・昭和の記憶が残る町——大磯の観光スポットをまとめて歩く
宰相の邸宅、日本初の海水浴場の地、三大俳諧道場、そして緑の鳩が海水を飲む岩場まで。歴史と自然が凝縮された大磯の見どころを、動線とともに整理した。
東海道線に乗り、大磯駅のホームに降り立つと、潮の匂いと緑の濃い山の空気が同時に感じられる。横浜から約40分、東京から約1時間でアクセスできるこの小さな町は、明治時代以降に伊藤博文・大隈重信・陸奥宗光・吉田茂といった政財界の要人が別荘を構えた「湘南の保養地」だった。その記憶が今もあちこちに残る大磯は、歴史に興味のある人はもちろん、海や自然を目的に訪れる人にとっても、想像以上に奥行きのある観光地だ。
大磯観光の核となるのが「旧吉田茂邸」(大磯城山公園内)と「明治記念大磯邸園」の2か所だ。旧吉田茂邸は昭和40年代の景観を復元した日本庭園が広がり、邸宅内からは富士山や箱根山を望むことができる。吉田茂が晩年に散策した当時の面影を残した敷地を歩くと、戦後日本の政治史が身近に感じられる。開館は午前9時〜午後4時30分(入館は16時まで)で、JR大磯駅から徒歩約30分、またはバス「城山公園前」下車徒歩5分。一方、明治記念大磯邸園は旧大隈重信邸や旧陸奥宗光邸など、明治期の政治家たちの別荘跡地を順次整備・公開している、国と地方が連携して整備を進める施設だ。入園料は無料。休園日は毎週月曜日(祝日の場合は翌日)と年末年始。駐車場はないため、公共交通での訪問が基本となる。大磯駅から徒歩約15分という位置関係にあり、旧吉田茂邸へのバス移動と組み合わせると半日でこの2か所を巡ることができる。
歴史散策としてぜひ立ち寄りたいのが、国道1号(旧東海道)沿いにある「鴫立庵(しぎたつあん)」と、高麗山の麓に位置する「高来神社」だ。鴫立庵は京都の落柿舎、滋賀の無名庵と並ぶ日本三大俳諧道場のひとつで、西行の歌「鴫立沢の秋の夕暮」に由来する名前を持つ。境内の石碑には「著盡湘南清絶地」という銘文があり、これが「湘南」という地名の語源のひとつとされる。高来神社は、渡来人・高句麗にまつわる歴史を持ち、古くは源頼朝が北条政子の安産祈願をしたとも伝わる古社だ。高麗山ハイキングコースの入口でもあり、湘南平(大磯・平塚にまたがる展望台)まで歩く人の拠点にもなっている。緑深い境内には本殿と神輿殿の軒下に施された精緻な彫刻があり、静かな参拝時間を楽しめる。
大磯の海岸線で、多くの人が見落としがちな隠れスポットが「照ヶ崎(てるがさき)海岸」だ。明治18年(1885年)に旧陸軍軍医総監・松本順がここに日本初の海水浴場を開いた、日本の近代海水浴発祥の地でもあるこの岩場には、初夏から秋にかけて丹沢の森から「アオバト」の群れが飛来する。全長約33センチ、緑色の美しい羽を持つアオバトは、塩分やミネラルを補給するために海水を飲みに来る珍しい習性を持ち、照ヶ崎はその日本有数の観察地として神奈川県の天然記念物にも指定されている。飛来は5月初旬〜10月頃で、見やすいのは日の出から午前10時頃まで。大磯は一つの町に、政治史・文学史・自然の三つが凝縮されており、日帰りで訪れるには惜しいほど濃密な時間を過ごせる場所だ。

