暮らし
電車が生活道路と重なる、江ノ電沿線に暮らすということ
観光客が写真を撮る風景が、住民にとっては通勤路でもある。
鎌倉と藤沢を結ぶ江ノ電の沿線には、腰越から江の島にかけての区間のように、電車と自動車が同じ道路空間を共有しながら走る、いわゆる併用軌道が残されている。海外からの観光客にとっては絶好の撮影スポットであるこうした風景も、そこに暮らす地元の人々にとっては、日々の生活道路そのものであり、通勤や通学、買い物のための当たり前の光景に過ぎない。カメラを構える観光客の隣を、自転車に乗った地元の人が何食わぬ顔で通り過ぎていくという光景は、江ノ電沿線ならではのものだ。
近年は海外からの観光客の増加に伴い、線路への立ち入りや路上での長時間の撮影といった、住民の生活に支障をきたす問題も一部で指摘されるようになっている。地元では多言語での注意喚起や、警備員の配置といった対策が進められており、観光地としての魅力と、そこで暮らす人々の日常をどう両立させていくかという課題への模索が続いている。それでもなお、江ノ電が走り抜ける風景の中で日々の暮らしを営むという体験そのものは、他の鉄道沿線にはない、湘南ならではの独特な日常をつくり出している。
江ノ電には「のりおりくん」という一日乗車券もあり、沿線に暮らす人だけでなく観光客にとっても利用しやすい仕組みが整えられている。地元の学生にとっては通学に欠かせない足であり、朝夕には制服姿の学生たちが乗り込む、ごく日常的な風景が広がっている。観光名所としての顔と、生活路線としての顔をあわせ持つ江ノ電は、湘南という地域そのものが観光地でありながら生活の場でもあるという二面性を、そのまま体現していると言えるだろう。
観光地でありながら生活の場でもあるという江ノ電沿線の二面性は、湘南という地域全体の性格をそのまま体現している。この土地で暮らすということの意味を、あらためて考えさせられる。
江ノ電の一日乗車券「のりおりくん」を使えば、沿線の主要な観光スポットを気軽に途中下車しながら巡ることができる。観光客としてこの切符を使いながら沿線を歩くと、地元の人々の日常の風景にも自然と触れることができるはずだ。
鎌倉高校前の踏切を紹介する記事とあわせて読むことで、江ノ電という鉄道が観光と生活の両方に果たしている役割がより立体的に見えてくる。
江ノ電の車両には昔ながらのレトロなデザインを残したものもあり、乗車すること自体がひとつの観光体験になっている。
こうした日常の風景こそが、江ノ電沿線に暮らすことの本当の魅力なのかもしれない。


