観光
藤沢の中心に立つ、時宗総本山「遊行寺」
なぜ鎌倉ではなく藤沢に、時宗の本山が置かれたのか。
正式名称を清浄光寺という遊行寺は、正中2年(1325年)に呑海上人によって開かれた時宗の総本山である。時宗の開祖・一遍上人は、諸国を巡り歩きながら念仏の教えを広める「遊行」と、踊りながら念仏を唱える「踊り念仏」で知られる僧だった。一遍が44歳のとき、鎌倉に入ろうとしたところを警護の武士に制止され、信者たちとともに片瀬、現在の藤沢へと向かったことが、時宗の本山が鎌倉ではなく藤沢に置かれることになった理由だと伝えられている。
境内に足を踏み入れると、「東海道随一」ともうたわれる木造銅葺きの本堂がまず目に飛び込んでくる。現在の建物は関東大震災で倒壊した後に再建されたもので、堂内には本尊の阿弥陀如来坐像が安置されている。本堂の右手には、手を合わせた一遍上人の穏やかな表情の銅像が静かに立ち、参拝者の目を引いている。境内には樹齢を重ねた大銀杏や、宇賀弁財天を祀る宇賀神社もあり、歴史ある大寺院ならではの見どころが随所に点在している。
境内にある遊行寺宝物館では、一遍の生涯を描いた国宝「一遍聖絵」をはじめとする貴重な文化財が、年に数回の企画展を通じて公開されている。毎年7月には、一遍の踊り念仏をルーツに持つとされる創作盆踊り「遊行の盆」も境内で開催されており、中世から続く信仰の歴史と、現代の地域イベントが同じ場所で重なり合っている。
藤沢駅北口からは遊行寺通りを歩いて15分ほど、赤い欄干の遊行寺橋を渡った先に境内が広がっている。江の島や鎌倉に比べると観光客の数は少なく、静かに歴史と向き合いたい人にとっては、藤沢観光の中でも特に落ち着いた時間を過ごせる場所になっている。湘南Doors編集部としても、藤沢という街の別の一面を伝える記事として、今後も遊行寺周辺の取材を続けていきたいと考えている。
藤沢駅からのアクセスの良さに加えて、境内は入場無料で気軽に立ち寄れる点も魅力だ。遊行寺通り沿いには昔ながらの和菓子店も点在しており、参拝の前後に藤沢の銘菓を味わうのもおすすめの過ごし方になっている。藤沢宿の記事とあわせて読むと、この一帯が持つ歴史の重層性がより立体的に見えてくるはずだ。静かな境内を歩きながら、七百年近く受け継がれてきた信仰の時間の流れを、ぜひ感じ取ってみてほしい。
藤沢駅・小田急藤沢駅からも徒歩15分ほどとアクセスは良好で、江の島や湘南T-SITEを訪れるついでに立ち寄ることもできる立地にある。