観光
落花生畑と太平洋のあいだに - 二宮・梅沢海岸を歩く
吾妻山公園だけじゃない。二宮の海岸線は、特産の落花生畑と相模湾の眺めが交差する、静かで豊かな散歩道だ。
二宮といえば、菜の花と富士山の絶景で知られる吾妻山公園がまず挙がる。だが、その山を下った先にも、この町ならではの風景が広がっている。二宮の南端を東西に貫く相模湾沿いの海岸線は、観光地化された賑わいとは無縁の、どこか昭和の海岸の空気を残した場所だ。サーファーも海水浴客もいない代わりに、波音と潮風だけが出迎えてくれる。
海岸の中心となるのが、二宮漁港に隣接する梅沢海岸だ。漁港区域に指定されており、遊泳やサーフィンは禁止されているが、それがかえって「歩いて楽しむ海岸」としての静けさを守っている。上空を走る西湘バイパスの高架橋は景観こそ独特だが、日差しを遮る自然の日陰として機能し、夏の強い陽射しの下でも快適に過ごせる。砂利まじりの浜を歩けば、波打ち際のわずかな砂浜に足が届く。遠くには伊豆半島や箱根の稜線、条件が良ければ大島のシルエットも水平線に浮かぶ。湘南二宮町観光協会の公式サイトによれば、梅沢海岸では毎年3月中旬から11月下旬にかけて観光地引網の体験が可能で、相模湾の豊かな漁場「瀬の海」で獲れるアジやサバなど多種多様な魚を体感できる。
梅沢海岸から東へ約1kmほど歩くと、袖が浦海岸に至る。二宮駅南口から国道1号線を渡って南下すると、徒歩5〜10分ほどで西湘バイパス沿いに海が見えてくる。かつては夏の海水浴場として地元の子どもたちに愛されてきた浜で、現在も護岸整備が続く静かな海岸だ。波の浸食を防ぐ養浜工事の歴史も、この海岸線が長年にわたって地元の暮らしと結びついてきたことを物語っている。海岸線を歩きながら内陸側に目を向けると、住宅地のすぐ背後に畑が連なる二宮町らしい風景が広がる。落花生の栽培はここ二宮において明治6年(1873年)に始まった。先人・二見庄兵衛が横浜で外国人から数粒の「南京豆」を譲り受けて栽培を始め、その後関東一円に広まったとされる、町で最も歴史的な経緯と伝統を持つ特産品だ(二宮町公式サイト「特産物一覧」より)。海岸から駅へ戻る道すがら、路地に点在する落花生の専門店に立ち寄るのも、この散歩ならではの楽しみだ。
吾妻山公園と組み合わせると、この海岸散歩はより豊かな半日コースになる。公園には複数の登り口があり、梅沢口からアクセスすれば、山頂の展望台を経て吾妻神社の参道を下り、竹林や木漏れ日の中を歩きながら海へとたどり着く「山から海へ下る」ルートが楽しめる。JR東海道線の二宮駅を起点に、駅北口から吾妻山公園へ登り、梅沢口で下山して海岸を散歩し、袖が浦を経て駅南口へ戻るコースは、標高差と海岸の風が心地よく対比する、二宮らしい一日歩きだ。江の島や鎌倉の賑わいとは違う、湘南西端の静けさを求める旅人に、この海岸線をすすめたい。


