観光
松林に抱かれた、茅ヶ崎の隠れ家美術館
明治の別荘地の跡地に、1998年開館した郷土美術館。
茅ヶ崎駅から徒歩8分ほど、高砂緑地と呼ばれる松林の緑地の中に、静かにたたずんでいるのが茅ヶ崎市美術館である。1998年に郷土美術館として開館し、萬鐵五郎や小山敬三といった茅ヶ崎にゆかりのある作家の作品を中心に、現在およそ2000点の美術品を収蔵している。通りからは建物が見えないため隠れ家的な雰囲気があり、軽やかに羽ばたくような外観のデザインは、湘南の明るい空と深緑の松林に美しく溶け込んでいる。
美術館を取り囲む高砂緑地は、明治期に日本近代演劇の先駆者として知られる俳優・川上音二郎とその妻・貞奴が居宅「萬松園」を構えた場所だ。大正時代には実業家・原安三郎の別荘「松籟荘」となり、1984年(昭和59年)に茅ヶ崎市がこの土地を購入して「高砂緑地」として開園した。緑地の日本庭園は、旧別荘時代につくられた庭園を生かした回遊式の庭だ。その一角にある茶室・書院「松籟庵」は、それとは別に、市内在住の岩田孝八氏からの寄付をきっかけに建てられ、1991年(平成3年)の文化の日に開館したもので、現在は茶会や文化活動の場として貸し出されている。
館内には三つの展示室があり、2階にはアトリエがある。茅ヶ崎ゆかりの作家や作品を中心とした企画展に加え、収蔵する約2000点の中からテーマを設けて紹介する収蔵作品展も開かれる。
早春には、緑地に植えられた約50本の梅が花を咲かせ、2月には梅まつりも行われる。松の濃い緑を背景に白とピンクの花が春の訪れを告げる。美術鑑賞と季節の花の両方を楽しめるこの場所は、観光地としての茅ヶ崎とはまた違う、文化的な奥行きを感じさせてくれるスポットだ。
美術館の目の前には市立図書館もあり、緑地全体が茅ヶ崎の文化的な拠点として機能している。なお、美術館の2階で営業していたカフェ「ル シュマン」については、2026年9月18日に美術館から閉店のお知らせが出されている。展覧会は会期ごとに入れ替わるため、訪れるたびに新しい発見があるのも魅力のひとつだ。高砂緑地・松籟庵の記事とあわせて読むことで、この一帯が歩んできた歴史がより深く理解できるはずだ。
駐車場は収容台数が少ないため、公共交通機関での来館が勧められており、満車の場合は近隣の有料駐車場を利用することになる点も覚えておきたい。
松林と美術という組み合わせは全国的にも珍しく、茅ヶ崎ならではの文化拠点として今後も注目していきたい場所だ。
文化と自然が同居するこの場所は、茅ヶ崎という街の知られざる魅力を発見できる貴重なスポットになっている。


